KTXアーキラボのヘッドアーキテクト松本哲哉です。弊社は主に商業施設や医療施設、オフィスなど、非住宅を専門とする建築・空間デザイン事務所であり、自社が設計したプロジェクトの施工を担う建設会社でもあります。また、私個人としては他社デザイン事務所のデザイナー育成や設計施工店のデザインアドバイザーとしてコンサル業務にも従事し、大阪芸術大学で生徒の指導にも励んでいます。
一番記憶に残る代表的な作品や経験を聞かせていただけますでしょうか。
結婚式場(ラヴィーナ姫路)内に位置する、チャペルの建て替え計画。新郎新婦にとって特別な日を、より特別な日にする非日常的な風景が求められました。水盤に浮かぶ雲をイメージしたチャペルの輪郭は、全て有機的な曲線で描かれ、その軌跡に沿った曲面ガラスが空間を柔らかく包み込んでいます。曲面ガラスやサッシなどの制作コストを抑えるため、軌跡の半径は2500ミリに統一されています。雲形の屋根とそれを支える柱を緩やかな曲面でシームレスにつなぎ、照明や空調設備を全て床下に設置することで、空間を覆う雲を淀みのないものにしました。床面は透明なガラスビーズを樹脂で固めたもので、日差しを受けて水盤のようにキラキラと光ります。ここから羽ばたく新郎新婦の新たな門出の象徴として、このチャペルはエル・ブランシュ(白い翼)と名付けられました。世界中のメディアにとり上げられ、様々な賞を受賞し、私たちにとって大きなステップとなったプロジェクトです。
デザインのプロセスを教えてください。自分だけのデザインプロセスなどありますか。
2D上で考え始めるのではなく、最初から3D空間で立体的にプランニングをスタートします。仮想空間にプログラムをインストールしながら常にリアルな空間体験をシミュレーションすることで、インパクトのある空間とファンクショナルなプランを実現します。
一番尊敬するデザイナーはどなたでしょうか?どのような影響を受けましたか?
建築家の遠藤秀平先生です。大学院生のころインターンとしてお世話になり、フランスのオルレアンで開催されたArchiLabという建築の展覧会・カンファレンスに同行させて頂きました。世界で活躍する遠藤秀平先生の姿を目の当たりにし、自分もいつか世界で活躍できる人間になりたいという野心が芽生えました。私のスタジオの名前 KTX archiLAB は、このときの ArchiLab から引用して名付けました。
10年後、デザイン市場はどのように変わるのでしょうか? 個人的にどういうご準備をしていらっしゃるのかお聞きしたいと思います。
今や誰もが世界中の最新のデザインにアクセスすることができます。それによりデザインのスタンダードは今後も押し上げられますが、一方、北欧デザインのブームに見られるような均質化・画一化が促進されることも考えられます。また、現代のデザイナーにとって、サスティナビリティを常に意識することは使命であると言えますが、全てのデザインをその物差しで測ることは、デザイン産業自体の発展を妨げることになりかねません。デザイン産業に画一的な「正義」が定着すれば、多様性を失い、アイデンティティを持った個性的なデザインの出現の機会を奪います。更に建築分野におけるサスティナビリティに目を向ければ、建設産業は自動車や飛行機の何倍もの温室効果ガスを排出しています。建設時の建材や輸送方法などももちろん大切ですが、最も重要なのは、将来において建物の持ち主が変わったり、用途が変わったとしても、取り壊したくないと思える唯一無二の建築を創出することです。多様な個性を持った素晴らしい建築・空間を創り出すことが、私たちが寄与すべきサスティナブルであると考えています。
大阪芸術大学にて空間デザイナーの育成にも注力しています。ここでは生徒それぞれの個性を伸ばし、デザイナーとしてのアイデンティティを持ち得るようサポートすることを心掛けています。更に建設会社や店舗デザイン企業にもアドバイザーとして、デザインのサポートを行っています。日本の空間デザイン業界全体の活性化により、更にレベルの高い空間デザインの需要創出を目指しています。多様で個性的なデザイナーが増えれば、世界における日本人デザイナーのブランディングにつながり、自身も含め日本人デザイナーの海外進出の一助にもなるのではないかと考えています。また、日本において現在人口の10%以上が東京に、約1/3が関東圏に集中しています。今後もその流れは加速すると思われることから、弊社は地方に位置していますが、首都圏のプロジェクトも積極的にお受けしており、現在も複数のプロジェクトを首都圏で抱えています。海外においても現在ヨーロッパやアジアでプロジェクトを同時に進めており、地方でデザイン事務所を運営していくリスクヘッジとしてフィールドを拡大しています。
デザイナーとして自分だけの哲学や信念などはございますでしょうか? そして今後のビジョンは?
商業建築・商空間のデザインを専門としているので、自分のデザインする空間はクライアントのビジネスツールであるということを常に意識しています。INCEPTION という映画をご存知でしょうか。レオナルド・ディカプリオや渡辺謙が出演する映画で、ある要人を操るために相手の潜在意識(夢)に潜入し、アイデアを植え付けるというストーリーです。 ただアイデア・考えを伝えるだけなら、話して伝えたり、文章で伝えることもできますが、なぜ潜在意識に潜り込んでアイデアを植え付ける必要があるのでしょうか。それは外部から伝えられた情報と、内部から出てきた情報(つまり自分自身で考え導き出したアイデア)では、情報の信憑性に大きな差があるからです。
外部から言語により受け取った情報を私達は「広告情報」として処理します。広告情報は相手からの売り込みであり、美化された情報であることを私達は知っています。一方、自らの内部から湧き出た情報は自分自身が考え、導き出した答えですから、その信頼性は前者に比べ格段に高くなります。空間の印象から非言語的情報を人の潜在意識に届け、情報を受け取った人の顕在意識で言語化させることにより、クライアントのビジネスを成功に導くことが、私たちのなすべきソリューションデザインであると考えています。
それを成し得る空間は相当に印象の強いものである必要があります。そのインパクトが潜在意識の扉を一瞬にして開け放つ「鍵」となるからです。そしてその鍵には、扉を開けると同時に伝えるべきメッセージを潜り込ませなければなりません。 そのメッセージはどのようなメッセージであるべきなのか、それを伝えるための鍵はどのような形であるべきなのか、それをクライアントと共に創り上げるのが私たちの仕事です。
デザインソリインタビューをご希望の方は、
下記のメールに簡単な自己紹介を送ってください。
SORI@DESIGNSORI.COM